笄(こうがい)

 女性の所謂髷を維持する道具でもあり、また装飾品。
 笄は、その昔男性の髪掻きだったそうです。烏帽子の中の髪の毛が蒸れたりして痒い時に使った物が、 時代を経るに従い、女性の髪を結う道具として、また装飾品としてその役割が変化していった物と考えら れます。とまあ、手前丁稚の下手な推論は置いておいて、ここで言う笄は江戸時代の女性の髷を結う際、 後頭頂部で髪の束を巻き付けるための棒状のものを指します。浮世絵等をご覧になると判って頂けると思 うのですが、後頭部の辺りで、左右に水平に突き出している棒がそれです。
 材質は玳瑁(タイマイ。鼈甲ベッコウとも言う)、象牙、銀製、蒔絵や螺鈿細工が施された物などがあ ります。また、用途としては笄と同じですが、中差簪(なかざしかんざし)と言うものがあります。
 中差簪は、笄と大して変わらない棒状のものと、足が一本だけの簪状のものがあります。(簪については 別項を設けますので、ここでは省略します。)
 『近世風俗誌』に寄ると、笄はハレ(公の場、または祭事など)に専ら使い、また中差簪でも玳瑁製のも のもハレに用いたとあります。木製蒔絵の笄はリャクケ(略褻。日常の場)に用いたそうです。
 ここで一つ不思議な記述が『近世風俗誌』に載せられているのですが、略褻の場合簪で笄の代用としたた め「中差」と呼んだとあります。また形状は笄(つまり棒状)でも、中差簪と呼んだともあります。これは、
用途、つまり櫛を除く装飾品全般を指すものを一般に簪と呼んで、それを指す場所によって恐らく便宜上区 別があった事、またハレとケの中間である時間をも差していたのではないかと考えられます。


参考文献:
喜田川守貞著、宇佐美英機校訂『近世風俗志(二)』、岩波書店、1997年。
灰野昭郎著、『京都書院アーツコレクション34 田村コレクション 櫛・かんざし』、京都書院、1997年。